Blankey jet cityと浅井健一の詩の世界

一番好きなバンドと聞かれると皆さんは何を答えますか。

色んな音楽を聴いてきて、その都度聞かれたタイミングで答えが変わることもあるのですが、僕の根底にはずっとBlankey jet cityというバンドがいます。

今年で解散25周年ということで、サブスクでの配信やアナログレコード化などいくつかニュースが流れています。

今一度、Blankey jet cityについて語ってみたいと思います。

Amazon Music UnlimitedでBlankey jet cityを聴く
(2025年5月7日まで3ヶ月無料)

Blankey jet cityとは

浅井健一(Vo/Gt)、照井利幸(B)、中村達也(Dr)からなる「音楽」の強さと美しさが極限まで昇華された3ピースロックバンド、BLANKEY JET CITY。 当時から「存在自体が奇跡」と評されるほどに、この超個性的な3人による圧倒的なパフォーマンスとその世界観は、音楽を愛する人々の心を強く揺さぶり、2000 年の解散後もいまだに音楽シーンに絶大な影響力を誇り、全世代から激しくリスペクトされ続けている。
(Blankey jet city特設サイトより)

間違いなく日本の音楽の歴史上、最重要のバンドの一つで、メンバーそれぞれも未だに多大な影響力を持ち続けています。

有名なところでは東京事変でもおなじみの椎名林檎氏が代表曲「丸の内サディスティック」で歌うベンジーとは、Blankeyの浅井健一のあだ名ですし、他にも曲中に出てくる「RAT」や「グレッチ」、「ピザ屋の彼女」もすべてBlankey jet cityと浅井健一氏に関係しています。

他にも忘れらんねえよというバンドの歌詞にも登場し、近年ではKingGnuの常田大希も影響を公言しています。
音楽関係者以外だと二宮和也や千原ジュニア、バイきんぐ小峠、フットボールアワー後藤もファンを公言しています。

僕自身が出会ったのは解散後になります。最も生で見たかったバンドの一つです。
当時はギターを始めたてで、ZeppelinやGuns N Rosesなどのハードロックを好んでいたのですが、日本のロックも聴いてみようとして手始めに聴いたのがBlankey jet cityとThee Michelle Gun Elephantでした。

洋楽思考だった僕を、両バンドともに強烈なボーカルとギター、世界観でぶっ飛ばしてくれました。

邦洋問わず、音楽の視野が広がったのは間違いなくこの2バンドのおかげです。

どちらも心から憧れていますが、ベンジーこと浅井健一氏の描く暴力的でありながら、純粋さを併せ持つその世界観には、多感な10代の時期に大変影響を受けました。

浅井健一の詩の世界

Blankey jet cityの魅力について語ることは容易くもあり、難しくもあります。

シンプルな音楽性でありながら癖のあるメロディライン・歌声、確かな演奏力を持ちながらライブでの衝動的な演奏、暴力的でありながらどこまでも優しい世界観など、矛盾に満ちています。

ある意味その矛盾が最大の魅力なのかもしれません。

あまりにも語られすぎている内容ですが、やはりBlankey jet cityを語るうえでは浅井健一の書く詩について触れないわけには行きません。

今回はバンドのフロントマンにして日本のロックシーンの中でも最重要と言える人物、ベンジーこと浅井健一の描く世界観について語ります。

Blankey jet cityのその音楽性については別でおすすめのアルバムとともに語りたいと思います。

その詩の世界観①:暴力的で刹那的な不良たち

自身も単車乗りであり、暴走族かバンドのどちらを選ぶか迷っていたというエピソードもある筋金入り(?)の不良でもある浅井健一氏の書く世界には、不良がよく登場します。

地下街の片隅にたむろしているのは ローラーを履いた新しいスタイルの不良グループ
後ろからハンドバッグをひったくる 近づくときの音を消すために奴らは高級な油を使う
(絶望という名の地下鉄)

ハニー 2人で廃虚を ハニー 駆け登り
夜のショーウィンドウで 盗みをしたね
(TEXAS)

ダイナマイトを持ってきてくれよ
ガソリン入りのビンでもOK
息をひそめ ゆっくり火をつけて 何かとっても悪い事がしたい
(DIJのピストル)

特に初期のアルバムには不良についてよく歌われています。そこに不良としてしか生きられない刹那的な感情、衝動的な暴力性、そしてもがき苦しむイノセンス(純粋)さが溢れています。

彼らの初期不良ソングには大人にれない少年としての視点が強いと僕は感じます。

見ろよ不良少年 その透き通った心で 空は本当の青さを忘れてるらしい
(不良少年のうた)

腐ったやつを正しいやつが 引き裂いてやるのは良いことなんだろう
神様だってそうするはずさ
(★★★★★★★)

神様 あなたは純粋な心を持っていますか
こんな事を聞いたこの俺にあなたはバツを与えますか
(おまえが欲しい)

行くあてはないけど ここには居たくない
イライラしてくるぜ あの街ときたら
幸せになるのさ 誰も知らない 知らないやりかたで
(小さな恋のメロディ)

不良少年とタイトルにもつけるように、そんな大人になれない少年の純粋さを浅井健一は歌っています。
彼にとって不良というのはイノセンスを忘れた(ある曲では”気が狂った”とすら歌う)大人に対する抵抗なのかもしれません。

その詩の世界観②:奇妙な味のする独特の表現

彼の書く詩の世界の中には、常人には思いもつかないようなぶっ飛んだ表現が幾度となく出てきます。
ある種ドラッギーな感覚に陥るようなその世界、人物、表現は他に例がなく、たまらなく癖になります。

染まり始めた雲がゆっくり流れていくのを見上げながら
俺は今新宿で立ち止まってる 想像力のカプセルを一つ飲み込んで
Hey you 街を行くお前 靴のかかとが取れかかってるぜ
だから今すぐ俺の恋人になってくれないか
(小麦色の斜面)

両手に荷物を いっぱい抱えた Bell Boy
エレベーターの中で 夢を見る
目がくらむほど 美しい女が 耳元で囁いた
今すぐ あなたの その熱いローストチキンを
私の部屋まで 届けていただけるかしらと
たくましそうな男の声で 囁いた
(RED-RUM)

地下へ降りてゆくドアを開ける
いきなりコウモリが注文を取りにきた
恐怖の戦場っていう名の ミルクシェイクを頼むぜ
次の瞬間 戦闘服を着た大男が バカデカイホースで
それをあたりかまわず 撒き散らし始めた
店中大騒ぎさ でもルールはちゃんと決まってる
紫の照明がオレンジに変わったら ダンスを始めなくちゃいけない
そう 誰も踊ったことのないような おまえだけのダンスを
波打つ床に 乗りながら
(3104丁目のダンスホール)

いかがでしょう…。

もう一つ目の”小麦色の斜面”からしてぶっ飛んでいます。「想像力のカプセル」とは一体…。
しかし僕はこの歌はあまりにもロマンチックな告白だと思ってしまいます(信者)。

続くRED-RUMや3104丁目のダンスホールはもはや悪い夢をそのまま切り取ったような描写です。
RED-RUMはタイトルからしてスタンリー・キューブリックのシャイニングの影響を受けているのでしょう。
その映画もまた悪夢のような内容ですね。

初期に偏っていましたが、中期以降もまだまだぶっ飛んでいます。

個人的には初期のほうがドラッギーな危険な匂いのする飛び方で、中期以降は衝動的な暴力的な飛び方のように感じます。

オレの憧れ アラスカ帰りのチェインソー
何でもかんでもメチャメチャに引き裂いてくれる
かん高いエンジン 青白い煙はいて
法律だろうが鋼鉄だろうが
(SKUNK)

子供だましの機械 スウィッチ切り忘れたままその男は 飛び降り自殺さ
爆弾が落ちて争いがはじまり夜行列車が夜に向かって走り去って行った
そんな昼下がりに僕は アイスクリームパーラー襲うのさ
(Sweet Milk Shake)

その詩の世界観③:ロマンチックあふれる映画のような風景描写

本人も非常に映画好きであることを公言しており、それに影響されたかのような風景描写の数々もBlankey jet cityの世界の魅力です。

あまりにもロマンチックであまりに繊細な言葉の数々。
どうしてこんな語彙が出てくるのか…。

キスしてくれないか 僕のこのナイフに
彼はきっとうれしくて体中ふるえ出す
これが最後さもう二度と 会うこともない
僕はこの街を出てゆくのさ 何もかも置き去りにして
(中略)
誰れも知らない国の海沿いの街へと 君の愛したこの青い空を持って
小さな駅で降りるとそこには 白い街並み 夏の朝
僕は荷物をかかえて はじめての坂を降りてゆく
(風になるまで)

戦場へ行きたいアミアゲのブーツを履いて
革のサイフには恋人の写真
腕に入れ墨を入れて
知らない国の知らない誰かを殺すために
きっと僕はためらったりはしない
落葉を 踏んで 森の奥へと
(中略)
きれいな眼をした女の人が僕の目の前で風に吹かれてる
そでなしのシャツに細くて白い腕
真っ黒な髪を風になびかせて
その白い顔に触れてみたいけど
僕の手はとてもけがれているから
(鉄の月)

夕焼けの色が本当の世界の色だとしたら
すべての小さな子供達に
今すぐその事を伝えなくちゃいけないだろう
何よりも先に
燃えて行くあの空が夜に消えて行く前に
(綺麗な首飾り)

15歳で家出して彼女は彼に出会ったのさ
ギターケースに座り クリーム色のバスを待ってた時
夜はきれいな星をたくさん手に入れてる
神さまは小さな鍵を探している最中
(15才)

いつの日か 頭を撃ちぬいてほしい 君の愛で
何も言わず 頭を撃ちぬいてほしい 君の愛で
後からそっと どこまでも続く この道の途中で
(自由)

ハートにヒビが入るほどきれいな
海を探しに行く物語
走る車の屋根に登って
風になったつもりで始めるのさ

ハートにヒビが入るほどきれいな
海を探しに行く物語
夢を失くした友とふたりで
風にもらった秘密の合言葉で
(海を探す)

本当に一本の映画のようです…
ロードムービー、戦争映画、ヒューマンドラマどれの原作にもなり得るレベル。

本当に浅井さん、映画撮ってください!

その詩の世界観④:希望に満ち溢れた優しさ

浅井健一氏の、不良であり少年であるイノセンスは、時に希望に満ちた優しさで溢れかえります。

僕はむしろBlankeyは暴力的な側面よりもこういった希望とやさしさに惹かれます(暴力的な側面があるからこそとも言えますが)

いくつか見てみましょう。

真冬にコートを着込んで 友達と2人で いろんな話をしながら
道を歩いて行くのは 好きだな 
(中略)
まだ昼の12時過ぎさ クリスマスの4日ぐらい前
その友達はきれいな心を持ってる
鼻を赤くしながら 楽しそうに話してる

Oh オレは時々嬉しすぎて Oh 道路標識を蹴っとばすほどさ
(ライラック)

僕はこの曲が全曲の中でもトップクラスに好きです。
寒いクリスマス前の昼、きれいな心の友達と歩いている瞬間を切り取ったこの描写、天才すぎます。
僕は毎年クリスマスの4日くらい前になると、心が嬉しくなります。

BABY Peace Markを送るぜ このすばらしい世界へ
(悪い人たち)

ソーダ水の粒のように 楽しそうな日々は流れる
かつて人はみんな 無邪気な子どもだったよ
(15才)

もしも誰かを愛したら
素直なその気持ちを
その人に伝える
それがこの世界へ
生まれ落ちた理由だから
(水色)

彼女のことが好きなのは 赤いタンバリンを上手に撃つから
流れ星一個盗んで 眼の前に差し出したときの顔が見たい
Oh 愛という言葉に火をつけて燃えあがらす
いくらか未来が好きになる
Oh I want you,baby 人は愛しあうために
生きてるっていう噂 本当かもしれないぜ
(赤いタンバリン)

SWEET SWEET DAYS 花びらが揺れるように
SWEET SWEET DAYS くちづけをした二人
気付かなくちゃ かけがえのない事に
気付かなくちゃ かけがえのない事に
(SWEET DAYS)

いつかはみんなが好きになる
神様はみんなの中にいて 嬉しさをくれる
(不良の森)

どこまでもポジティブであり、人々の中にあるイノセンス信じ続けている言葉の数々。

これがBlankey jet cityのもう一つの大きな魅力だと思います。

その詩の世界観⑤:母の愛

最後になります。

浅井健一の世界の中で母親は特別の存在であります。

愛の具現化と言ってもいいほど、特別な存在として何度も何度も現れます。

昔から母親への言及は気づいてはいたのですが、僕自身が子どもを持って以降、その刺さり方が尋常じゃなくなりました。
自分自身の母親と、自分の子供の母親(=妻)どちらに対してもです。

最後はそんな彼の母親というものへの思いについて見たいと思います。

楽しい遊園地の中で 迷子になった小さな子供が
お母さんを探す気持ちは真実
たぶん宇宙の形は その母親が子供を抱きしめた時に
湧いてくる気持ちに似ているんだろう
(車泥棒)

これが僕の思う母親の愛ということの全てです。これ以上の表現はないと思います。
宇宙の形は母親の愛そのものだとこれ以上ない表現力で看破しています。

親愛なる母へ僕は今は迷っています生きるべきか死ぬべきなのか
あなたはきっとそんな僕を見て微笑んでくれる
綺麗な洋服を着てずっと前のように 白黒の写真に映った青空の中で
(親愛なる母へ)

窓の外はすべて嘘だから
眼の前の子が僕を見ている 母親の腕に抱かれて
窓の外はすべて嘘

他にもタイトルがそのままMOTHERという曲や、”パパ ママごめんね 僕はヤンキー”と歌う曲もあり、思ったより母や父について言及する曲は多かったです。

そして、やはり極めつけは彼らの最大の問題作”悪い人たち”で最後に語られるこの一節でしょう。

日傘をさして歩く彼の恋人は妊娠中で
お腹の中の赤ちゃんはきっとかわいい女の子さ
(悪い人たち)

悪い人たちが弱い人たちを殺し、街を作りビルが建ち並び、残酷な事件が繰り返される世界が描かれるこの曲は、最後に妊娠した恋人とお腹の中のきっと可愛い女の子について言及し、”この素晴らしい世界にピースマークをおくるぜ”と祝福の言葉で終わります。

どんなに残酷な一面があっても、母親とその子どもとそれを取り巻くこの世界を彼は祝福します。

今まで述べてきた彼の世界観のすべてが詰まっているような気がします。

最後に

優しい不良、歩く詩人。

浅井健一氏の詩を改めて見つめ直しましたが、自分の大事にしていることはだいたいBlankeyの曲で触れられているように感じました。

彼が歌ったから大事なものになったのか、今ではもうわかりません。もう細胞に流れ込んだまま抜けていないのです。

彼の語ることによるとBlankeyの曲は全てJet Cityという架空の街の出来事だそうです。実際にそれを描いた町の地図もあり、僕も持っています。

まさしくBlankeyの曲は浅井健一氏の中にある世界そのものだったのでしょう。

もし少しでも興味を持つ詩があれば聴いてみてください。

それではまた。

タイトルとURLをコピーしました