先日楽しみだと書いた映画が上映されたので初日に行ってきた。
上映と同時に鳴り響くパンニングされたSE、ポンペイの古代の円形遺跡にトラックで機材を運び込む不自然な光景、現れるラフな格好のメンバー、そして始まるEchoes Pt.1
開始10分でもう完全に虜になってしまった。
ライブシーンでは撮影機材や照明、スタッフなど隠しもせず、それも含めて撮られた映像は逆にリアルな生々しさを描いている。
また、遺跡でのライブ映像と交互に、Dark side of the moon(狂気)のレコーディングとの風景が差し込まれる。
ライブシーンでは演奏以外の一切がほぼ描かれないのだが、レコーディングシーンではメンバーでの食事風景やインタビューなどが描かれる。
その中でも特にデヴィッド・ギルモアの言葉は印象的だった。
「僕たちは音響機器の奴隷になったりしない」
「頭の中に流れているものを形にしているだけ」
きっと当時は彼らの音楽も「機械に頼った音楽」のような揶揄が多かったのだろう。
一人で自室で完結できる現代の環境に比べれば、それでも編集のシーンは非常にアナログに映って見えた。
何度もシンセサイザーのつまみを回すニックメイスン、ギターを撮り直すギルモア。
間違いなくその一つ一つの作業が「頭の中の音」を取り出す作業なのだ。
果たしてかつてより今のほうが「頭の中の音」を取り出しやすい環境なのだろうか。
あまりにもあらゆるものにアクセスしやすい環境で、たまに「これは本当に僕の頭の中にあったものなのか」と感じることも多い。
ほかにも語られる「僕たちメンバーの共通点は、お金を稼ぐことにほんの少し執着があることだ」という言葉や、繰り返される「ロックンロール」という言葉も興味深い。
半ば神秘的な存在のように描かれるPink Floydだが、始まりはどこまでもハングリーなロックバンドであったのだろう。
そのメンバーの頭から生まれてきた音楽が、狂気に到達したということは何とも感慨深い。(狂気にはまさにMoneyという曲がある)
僕はPink Floydをリアルタイムに経験した世代ではない。
それでも彼らの音楽はいつ聞いても発見があり、内省を促してくれる。
彼らは偉大なミュージシャンであるが、この作品ではそのような描かれ方はしていない。
アルバムを通して見えていたPink Floydとはまた違った見方ができた気がする。
オリジナルメンバーはすでに欠けてしまっているが、どうしても生で見てみたい。
デヴィッド・ギルモアのどこまでも遠くまで飛んでいくギターを聴いてみたいものだ。